マーク篇@




マーク・ギルダーは、実は天然である。
一見して、冷静そうに見える。
実際、冷静ではあり、そう簡単にパニックになったり激情したりはしない。
それでも、天然なのである。
パイロットとして、クルーとして、特大の才能を秘めておきながら、彼が精を出していたのは農業だった。
「何かを作る、何かを育てるのは良いことでしょう。色んなものが見えてくるのですから」
と、彼はスカウトに来たゼフィールにこう言った。
彼の欠点は、自分自身に興味を持っていない所だった。
「じゃあ、スイカじゃなくて自分を育てたらどうなんだ」
ゼフィールはそんな彼の欠点を見抜き、そう言った。
それでも彼は抵抗した。
軍には入りたくないと。
「じゃあ、条件を出そう」
何でスカウトする側が条件を出すんだと、その時側にいたオグマ・フレイブは思ったが、
「条件って何ですか」
とマークが言ってしまったため、何も言えなくなってしまった。
「君の農場で栽培した野菜を軍で購入させてもらう」
この言葉にマークは飛びつき、オグマは持っていた大根を落とし、頭を抱えた。
ゼフィール・グラードは彼を「大馬鹿野朗だよ。あのままならな」と言った。
天然であれ、彼の思考は論理的、且つ、的確だった。
季節・気温・湿度・天気を相手に野菜を育て、害虫や動物から野菜を守るために身につけたその思考能力。
それは内容が、パイロット・クルー・機体の性能・機体数・艦隊性能に変化したところで何ら劣ることはなかった。
その指揮能力の高さと、見かけ上のカリスマ性から、彼は艦長見習いになった。
このスカウト話と彼の履歴を聴いたジュナスとシェルドは、口をそろえてこう言った。
「無茶苦茶だ」
勿論、マーク自身も、自分が天然入っているのは、自覚している。
素っ頓狂なことを言って、場を和ませたことも冷めさせたことも1度や2度ではない。
どうにかしたいと思いつつ、まぁいいかと思考停止するのもいつものことだった。

ついさっき。
モニターを見ていたルナ艦長代理が、モニター室から何も言わずに出て行った。
付いて来いと、彼女が言わなかったのは、自分は必要ないからだろうと判断し、彼はその場に残った。
俺たち二人のほかに誰も聞いてないといいけどな…。
パメラとジュナスの二人が写っているモニターを見ながら、彼はそう思った。