マーク篇A




マーク・ギルダーは真剣な顔をして悩んでいた。
キャリー・ベース内にある自習室の一角。
専用のパソコンに向かい、椅子に座って脚を組み、腕を組みながら眉にしわを寄せて、真剣に悩んでいる。
その姿は、どう見てもレポートに打ち込む真面目な男性の姿である。
自習室で勉強するはずの女性たちが、思わずその横顔に見惚れてしまうのも、うなずけるものである。
しかし、事実はかなり違っている。
とうの昔にレポートなど打ち終わっているのだ。
何度も見直し、修正されたレポートが完成されている。
では、マークは何を悩んでいるのか。
それは。
今日のお昼ご飯に出てくるメニューに、マーク農家製の野菜が出てくるかどうかであった。
この対女性専用天然爆弾男は、そんなことに頭を悩ませているのである。
(もしかしたら、俺はゼフィールに一杯喰わされたんじゃ…)
今更になってその可能性に気がついたマークであった。
勿論、ゼフィールは約束を違えるような男ではない。
その条件を守るために、奔走している。
しかし、そんな簡単に食卓に上がるところまで、こぎつけるわけもない。
自分が作った野菜の安否を気遣いながら、マークは今日も悩んでいた。

ふと、そこに。
マークに声をかけた男がいる。
名をギルバート・タイラー。
いかつい筋肉男である。
「マーク」
声と気配に気がつき、後ろを振り向いた。
そこにギルバートが立っていた。
「何も言わず、こいつを受け取ってくれないか」
ギルバートが差し出したのは、ピンクで彩られた便箋である。
マークは、「何も言わず」と言われたので、黙ってそれを受け取り、目だけで問うた。
「俺も中身までは知らん。キリシマ嬢に頼まれただけだからな」
「…」
マークは、なおも黙っていた。
「お前、別に朴念仁というわけでもないのだろう。しっかり返事しろよ」
そう言うと、ギルバートは去っていった。
一方、マークといえば
(ボクネンジン、って何だ?新しい人参の種類か?)
などと見当違いも甚だしいことを考えていた。