ルナ・シーン艦長代理、その責務
ルナ・シーンはこみ上げる怒りを、必死で抑えこんでいた。
艦長用の椅子に座り、机に両肘を乗せ、そのまま両手を目の前で組み、まぶたを強く閉じていた。
ここは艦長室。
確かに彼女は、5分ほど艦長室を留守にした。
なんのことはない用を足すためである。
しかし、そのほんの5分ほどの間に、机に置いておいたチョコレートが消えていた。
(私にも落ち度はある。確かに鍵は閉めなかった)
チョコのほかに盗まれたものは、何一つとしてない。
犯人は、他のものには目もくれず、ご丁寧にチョコレートだけを盗んでいったのだ。
もとより、シェルドに渡すつもりはなかった。
代理とはいえ、艦長という職務に就いている自分が行うべきことではない、と彼女は自分を律していたからだ。
そもそもチョコを買ったのも、艦長代理である自分が買えば、乗組員たちは、チョコを買いやすくなる。
艦長が買ったから、大丈夫なんだ、と。
その内、自分で食べようと思っていたチョコレートは盗まれた。
鍵を閉めなかった自分にも苛立ちを覚えるが、それより、そんな幼稚じみたことをする人間が、いま、この
ルナ・シーン艦長代理、その責務A
艦内にいるのが、たまらなく不快だった。
見当は付いている。
一人しかいない。
イワン・イワノフだ。
真面目に訓練を行うこともなく、くだらないギャグを連発しては、他の訓練生の意気をくじいているあの男。
しかし、証拠はない。
彼が「知らない」と言ってしまえば、それまでなのだ。
疑わしきは、罰してはならない。
証拠もないのに、罰してはいけない。
上に立つ人間がそんなことをしたら、下の立場にいる人間まで、真似してしまう。
彼女は、艦長代理という職務に誇りを持っていた。
だから、何かにつけ、まずは艦長代理という立場を優先した。
ルナ・シーンは、そこで強く閉じていた瞼を開く。
必ず証拠を掴んで、その性根を叩きなおしてやる。
そう決心するルナ・シーンだった。