その男、ニードル
ニードルは苛立っていた。
理由は、自分が脚光を浴びれないことだった。
整備士見習いとしてキャリー・ベースへと来たは良いが、何も上手くこなせない落ちこぼれ的扱いを受け続けていた。
さらに後から来たシェルドという才能溢れた若者のせいで、彼の肩身はますます狭くなった。
彼に勝っているところと言えば、Iフィールドの取り扱いくらいなもの。
何一つとして、面白いことなど無い。
勿論、全ては彼の被害妄想だ。
整備担当教官のケイ・ニムロッドは、訓練生の優劣で態度を変えるような人間ではない。
しかし、ニードルの解釈は違う。
全てを他人のせいにしていた。
ニードル自身を誰一人として認めようとしないクルー達に、嫌悪感を示していた。
しかも、
(上層部が認めているから、バレンタインが成立して、訓練も休みになるだ?)
いい加減にしやがれ。
あぁ畜生、畜生、畜生。
ふざけんな。
どいつもこいつも、ふざけてやがる。
イワンの糞は、チョコ盗むくらいで構わないようだが、俺はそうはいかない。
ぶっ壊してやる。
ジュナスとパメラの出会いを邪魔した後、彼は、司令室に赴く。
そこにいたリコル・チュアートに、
「ミンミが呼んでたぜ?俺がここにいるから、行って来いよ」
などと、大嘘をつき、彼女を司令室から離れさせた。
(訓練なんか、永久に来ないようにしてやる)
彼は、司令室のコンピューターを出鱈目に弄り回した。
(知ったことか。どうなろうと、知ったことかぁ!)
苛立ちに任せ、全てを狂わせようとした。
やがて、一通りコンピューターをいじったことに満足したのか、彼は司令室を後にする。
しかし、現実には、このキャリー・ベースは『訓練艦』である。
その為、どれほどに司令室のコンピューターを弄り回したところで、自動補正機能が働き、全ては、正常値へと修正される。
文字通り訓練の為である。
そんなことをしても、意味の無い行為なのだ。
しかし、
1つだけ、彼の目論見が成功した箇所がある。
それは、遠距離砲撃用の小型観測艇の空間座標である。
ヨルムンガンドやガンダム4号機用の小型観測艇。
宇宙での居場所を明らかにするための、その座標が狂ってしまったのである。
司令室のコンピューターは自動補正機能を働かせ、司令室での小型観測艇の空間座標は正常値へと戻った。
しかし、小型観測艇のコンピューターには、自動補正機能など付いていない。
その為、小型観測艇の空間座標は、大幅に狂ってしまった。
もう一度、言おう。
小型観測艇での、空間座標表示は、狂った。
司令室での、小型観測艇の場所を示す空間座標表示は、修正された。
観測艇の居場所を示す空間座標は、観測艇と司令室、それぞれで大幅にずれてしまった。
そして、
明日、2月15日は、長距離砲撃の訓練を行う予定であり、
砲撃を行うガンダム4号機のパイロットは、ギルバート・タイラー。
小型観測艇の通信、及び、操縦予定者は、パメラ・スミスであった。
時は過ぎていく。
決してとどまることなく、とまることなく。
こうして、2月14日、バレンタイン・デイは、終わりを迎え…
そして、物語は、2月15日、訓練当日へと…。