最終篇D  〜テイク・オフ〜




カタパルトには、既にヅダがスタンバイしていた。
「ちょうど今さっき、カタパルトに乗せたところだ」
到着したジュナスとマークに、ケイ・ニムロッドは、そう告げた。
「コクピットで、シェルドが待っている」
「15分かかるんじゃなかったんですか?」
ジュナスがケイに尋ねた。
まだ、10分少々しか経過していない。
「全員が本気になった証拠さ」
ケイはそこでタバコに火をつける。
「さっさと行ってきな!」
ジュナスのケツを盛大に叩き、ケイは微笑んだ。

二人はコクピットに乗り込んだ。
本来、単座であるはずのヅダの機体には、もう一つ椅子が設置されており、前後の複座になっていた。
マークが前に、ジュアンスが後ろの座席に座り、それぞれ体をベルトで固定する。
「いいですか?こっちが、Iフィールド用のスイッチ。こちらが、ブースター用の急造レバーです」
シェルドがマークに説明している。
「1つの機体に、2つのOPを付けるなんて前代未聞です。どんな作用が働くか、正直、見当もつきません…」
「俺の腕次第、ということか」
「そういうことです」
そこでシェルドは、右手をマークに差し出した。
「…」
マークは黙ったまま、その右手に応え、固い握手を交わした。
シェルドは手を離すと、その手をそのままジュナスのほうへと差し出す。
握手を交わしながら、ジュナスはシェルドに、
「…シェルド、ありがとう」
と、言った。
「そういうことは、帰ってきてから言うもんだよ」
「そうだな…必ず帰ってくる…!」
「当たり前だよ」
「シェルド…変わったな」
ジュナスがそう言うと、シェルドの顔は少し赤くなった。
「うるさいな」
『おう!そろそろ時間だぜぇ!』
通信機からギルバートの声が聞こえた。
「ハッチを閉める!シェルド、離れてろ」
マークがシェルドにそう告げ、彼はコクピットから離れた。
「さぁて…」
マークが両手を組み、指関節を鳴らす。
「マーク・ギルダー、ジュナス・リアム。ヅダ機、出る!」
カタパルトに乗って、ヅダが発進した。

その軌道をシェルドは見ていた。
「…頼む」
そう呟くと、彼の体は、疲労と緊張の糸が切れたため、前方へと倒れこんでしまう。
しかし、
「…おつかれ、シェルド」
彼の体を、エリス・クロードが優しく抱きとめた。
その傍らには、エターナ・フレイルが立っている。
彼女の視線は、ヅダが発進して行った方を向いていた。
「必ず、帰ってきて…マークさん…」