チョコの行方@
ギルバートは、マークに手紙を渡し、自習室を出て、そのまま自室へと向かっていた。
彼はあの手紙の内容に対し、今日という日の意味と、あのピンクの便箋の意味を考えれば、おのずと見当は付いていた。
(ラブレターを渡されても、言葉一つ発せず、眉一つ動かさないあの冷静ぶり、見習いたいものだ)
マークに対し、そんな見当違いの評価を下していた。
突き当たりの廊下を左に曲がったところで、ピンクのリボンがついた大きい包みを持っているドク・ダームに会った。
「…」
「…」
ギルバートは、驚いた。
(ドク・ダームが、本命っぽいチョコを持っている…)
ドクは、しまった、と思った。
(ぜってぇ、勘違いされてるぜぇ…)
「似合わないな、お前」
ギルバートは、ドクにそう言った。
皮肉ではなく、祝福の意味合いを込めていた。
「待ちなや、ギルの大将。コイツはぁ、貰ったんじゃなくて、拾ったんだ」
ドクは、両手を挙げながらそう言った。
「拾った?そんなでかいもの、落とす奴がいるのか」
いるとしても気がつくだろう、普通。
「拾ったってぇのは、語弊を招くなぁ。隠してあったのを、見つけたんだ」
「隠してあった?誰かがバレンタインのドッキリでもするつもりだったのか」
「懐かしい言葉知ってンのなぁ、大将。っつかぁ、違うぜ。コレを隠してたのは、イワンのおっさんだ」
「イワン!?」
ギルバートは驚く。
「あの救いようのない男がか」
「ひでぇ言い様だなぁ、大将。まぁ、俺も同感だけどよぉ…」
そこで少し沈黙が流れる。
「ところで、コイツをよく見てくれ。どう思う?」
「すごく、大きいな」
「ンなこと見れば分かンだよ、って、何だよ、このどっかで聞いたような会話は」
遊び心だ。
「まぁ、いい。どこからどう見たってチョコレートだ。しかも、本命っぽいぜぇ。あのイワンのおっさん、なぁに企んでると思う?」
そこでギルバートは少し考える。
「あえて隠しておいて、女性に見つけてもらう。しかる後に、自分に渡してもらうのを待つ。擬似バレンタインだな」
ギルバートは思いついた可能性を挙げてみた。
砕けた言い方をすれば、女性がレジを打っている店でチョコを買って、店員さんに渡してもらう、というアレだ。
「それは、俺も思ったぜぇ。しかしな、宛名がついてねぇんだ。誰が拾っても渡しようがねぇと思うぜ」
「そこまで考えが至ってないだけでは?」
「あの救いようのないドスケベでも、覚醒はしてんンだ。そこのくらいのカンは働くと思うぜぇ」
「…お前は、どう考えているんだ?」
そう問われて、ドク・ダームは、ニヤリと笑った。
「盗んだのさぁ。それならわざわざ隠したのも納得がいく」
「…決め付けるのは感心しないぞ」
そう言いながらも、ギルバートは、可能性はなくはない。と思った。
バレンタイン前日の、あの僻みっぷり。
何をやらかしても、不思議はない。
「でさぁ、どうするよ、コレ」
ドクはそう言って、チョコを人差し指に乗せ、器用にクルクルと回した。
「さて、な」
俺が持っていても、ドクが持っていても、似合わない。
かといって、自室に隠すのも気が引ける。
万が一、本当に盗まれたものである場合、疑いをかけられる可能性もあるのだから、部屋に隠していては、自分が犯人ですよ、と言っているようなものだ。
「ギルの大将が、もちっとチョコ似合ってれば、問題なかったんだよなぁ」
お前が言うな、とギルバートはそう思った。