第二話「…チャンス到来! 華麗にキメるぜ!」
何重もの危険が迫りつつある「空の守り神」ことバーツ・ロバーツ。
そんな当の本人はというと…日傘の下、葉巻をくゆらせながら
自分のアジトでバカンス気分を堪能中だった。
「…ったく、最高だなぁここは」
口から煙を吐きながら、上機嫌そうにバーツがそう呟いた。
ここは、バーツが見つけた無人島。
連邦の巡回ルートからも外れている上、中々住み心地もいい。
地上に残された、数少ない楽園の一つだ。
「いい女の一人でもいりゃあ、文句はねぇんだけどな」
そんなことを呟きながら、のん気に葉巻なんぞを堪能している。
バーツという男は、「空の守り神」という仰々しい異名から受ける印象とは裏腹に
その実態は、ソニアの言ったようにどこまでも気ままなバルチャーだった。
日も頂点まで上った正午。
原生の果物にかじり付き、野生の獣を仕留めて焼いて
テキトーに食事を終えたバーツは、「ある用」を済ませるために
愛機Gファルコンに乗り込んだ。
澄み渡るほどの晴天の中、無限に拡がるかのように煌く広大な海の遥か上空をGファルコンが飛ぶ。
「ったく、最高の飛行日和ってヤツじゃねぇか…
風が感じられねぇのが、ちょっとばかし残念だがな」
バーツが、誰に言うでもなくそう呟く。
そこに…突如通信が入ってきた。
『よ、お仲間さん!』
「なんだなんだぁ…」
バーツがレーダーに目をやると、Gファルコンの後ろに見慣れない、赤と白で塗装された
戦闘機が追尾してきていた。
「コイツは驚いた…」
この辺りに、自分以外の「空飛ぶバルチャー」がいたとは…
しかもこれはとんでもない高性能機…その戦闘機の姿を確認しただけでバーツにはそれがわかった。
さらに、その戦闘機のパイロットから通信が入る。
『奇遇じゃん、こんなとこで飛行機乗り同士が出会うなんてさ?』
「確かになぁ…なんだソイツは、変形機か?」
『へへ、聞いて驚くなよ…コイツはガンダムエアマスターのファイターモードだぜ!』
「ガンダムなぁ…」
そのバーツの反応を聞いて、少し残念そうにエアマスターのパイロットが言った。
『なんだよ、あんま驚かないんだな…ガンダムだぜ?』
「知り合いに、もう一人ガンダム乗りがいてね…」
ガンダムレオパルドのドクの顔を思い出しながら、バーツはそう呟いた。
『ソイツは知らなかった…ガンダム乗りが、こんな辺鄙な所にもう一人いたなんてね』
そう言った後、優男は更に捲くし立てるようにバーツに言った。
『ま…ここで会ったのも何かの縁だろ? ここは一つ、アンタの名前を教えてくれよ』
その問いにバーツは一回溜息を付いたあと、こう返した。
「…アンタ新入りか?
ここらじゃ、それなりに顔は知られてたって思ってたけどな」
『すみませんねぇ、何せ最近デビューしたてのルーキーなもんで。
…オレはサエン・コジマ。アンタは?』
「オレはバーツ・ロバーツだ。Gファルコンのバーツっつったら、それなりに名が知られてるんだぜ?」
『へぇ、あんたって有名なんだ』
「まぁな…とにかくサエンさんよ。
覚えといてやるから、ビッグになってそのうち武勇伝をオレに聞かせてくれよな?」
『言われるまでもありませんって。それじゃあな、Gファルコンのバーツさん!』
「おう、またなジャパニーズボーイ!!」
そして二機は分かれ、再び各々の目的地へと向かっていった。
バーツのGファルコンは、目的地に辿り着こうとしていた。
とある島の上空まで辿り着くと、島の住民は騒ぎ出す。
「あ、バーツのおじちゃんだ!」
「Gファルコンだ! かっけー!!」
付近のバルチャー仲間内での自警団的役割も担っているバーツは
バルチャーには珍しく一般人からも慕われた存在だった。
「そろそろだな、ダイス爺さんの工房は…」
そしてその島でひっそりと経営されている、一つの工房に辿り着くGファルコン。
工房を見つけると、工房備え付けのカタパルトにGファルコンは乱暴に着陸する。
Gファルコンのハッチを開け、地上の空気を目一杯吸い込むバーツ。
「ったく、コイツは美味ぇや…」
そんなバーツを最初に出迎えたのは、この工房の雇われ用心棒のバルチャー、コルト・ロングショットの乗る
ドートレス・ウェポンというモビルスーツだった。
警備中のドートレス・ウェポンに通信を繋ぎ、威勢良くバーツは聞いた。
「よぉコルト、どうだい調子は!?」
ドートレス・ウェポンのコクピットの中で、コルトは少し面倒臭そうに返事をする。
『ったく、平和そのものだよ。
コイツのキャノン砲もここ最近は一回も火を吹いちゃいねぇしな』
「ソイツは結構なことだなぁ!」
『結構なモンかよ、腕が鈍ってしょうがねぇ…』
「ところでコルトよ、ダイス爺さんはいるか!?」
『いないわきゃねぇだろ。
ここ以外のどこに行くあてがあるってんだよ、あのジジイが』
「そりゃそうだ!!」
ダイス爺さん、なる人物がいることを確認するとバーツはGファルコンから降り
工房の事務所へと足を運んでいった。
「おうおう、元気そうじゃねぇかダイス爺さん!」
「久々じゃのう。わざわざこんなとこにまでご苦労なこって」
彼こそが「ダイス爺さん」ことダイス・ロックリー。
『伝説のメカ屋』として名を知られてはいるが、彼がどこに住み
今どんな暮らしをしているのかを知っている者は、極限られた人間しかいない。
バーツはその「極限られた人間」のうちの一人である。
ダイスの禿げ上がった頭を撫でながら、バーツは上機嫌そうに言う。
「へっへっへ…コイツの整備を任せられるのは、アンタくらいなもんだからなぁ」
「そりゃそうじゃ。しっかし、また荒く扱いおってからに」
「すまねぇなぁ」
バーツのGファルコンの手入れをしている者は誰か……
それはこの付近のバルチャーの間では、長年謎とされている。
正解は、「伝説のメカ屋」がひっそりと隠居後も「空の守り神」の機体の面倒を見ていたという話だ。
何かと仰々しい二つ名がついてまわる話である。
コルトの操縦により、工房内の整備デッキへの搬入が行われる
Gファルコンの姿を眺めていたバーツに、突如話しかける声があった。
「お初にお目にかかるであります!」
バーツが声がした方向に目をやると、そこには
ビシッ、と敬礼しながら姿勢を正し直立している…子供の姿があった。
「おぉ…なんだぁコイツは?」
「整備見習い件、用心棒見習いのミンミ・スミスであります!
…以後、お見知りおきを!」
その姿を見て、バーツは思わず噴出した
「プッ…がははは!!」
「な、何がおかしいでありますか!?」
さらにひとしきり笑った後、少し落ち着いたバーツがダイスに向かって大声で聞く。
「コイツは参ったなぁ…なんだぁダイス爺さん、孫でもできたってかい!?」
そしてミンミの頭を撫でながら聞いた。
「なぁ坊主、年はいくつだ?」
「坊主では…ないであります!」
「なんだ、お嬢ちゃんかい…で、爺さんどうしたんだコイツ?」
その様子をやや微笑ましげな顔で見ていたダイスは、事情を端折りながらではあるが話し始めた。
「いやのう…単身出稼ぎに来たようでのう。弟子入りを志願してきおった。
どうにもほっとけなくてのう……」
その様子を見てバーツはさらにバカ笑いした後、さらに言った。
「コイツぁたまげた! あのダイス爺さんが弟子をとるなんてぇなぁ…」
その様子を見て、特に腹を立てるでもなく、ミンミは再び姿勢を正して言った。
「ま、まだまだ未熟者でありますが、精進するであります!」
「まぁ…ソイツは結構。で、その喋り方はなんなわけ?」
その質問には、ミンミより先にダイスが答えた。
「軍人に憧れているらしくてのう…コヤツの死んだ義理の親父が軍人で
しかも義理の姉さんとやらは、現役で軍で通信官をやっとるらしい」
そんなダイスの説明を聞いて、少し腑に落ちない様子で…
バーツはミンミに言った。
「憧れ、ねぇ…おい嬢ちゃん、軍なんてそんないいとこじゃねぇぞ?」
「しかし自分は軍に憧れるであります! 姉の事も誇りなのであります!
それと…」
「なんだぁ?」
「お嬢ちゃん、などと呼ぶのはやめて欲しいであります!
「そうかいそうかい、わかったわかった…んじゃ、これからよろしくなミンミよ」
「こちらこそ、よろしくであります!
これから精進を積み、何時の日かきっとダイス師匠を超える機械屋になってみせるであります!」
そう言って、また敬礼をするミンミに苦笑いしているバーツを尻目に
ダイスがミンミに向かって言った。
「今の所はまだまだ見習い未満じゃぞ。
まだコルトの相棒をやってもらう」
「了解しておりますであります!」
その言葉を聞いて、驚いた様子でバーツはダイスに尋ねた。
「おいおいコルトの相棒ってこたぁ…まさか、アイツもモビルスーツに乗るってのかい?」
「安心せい、余っていたタンクじゃよ…ドートレスタンク」
「あ〜なるほど、アレかい…」
「それにここ最近は本当に平和じゃからな」
伝説のメカ屋ダイス・ロックリーもまた、気ままな現役生活を送っているようだ。
その頃、港町から内陸部に進んだ一帯では
ブラッド主導による、「治安維持部隊」らによるバルチャー掃討作戦が、ついに開始されていた。
治安維持部隊にはバルチャー出身の「ジェシカ・ラング」なる腕利きモビルスーツ乗りも編入され
彼女の乗るモビルスーツ…ガンダムベルフェゴールの後継機「ガンダムヴァサーゴ」は多くのバルチャーを仕留めていた。
基地へと帰還途中のテンザン級ブリッジ。
ジェシカ・ラングのガンダムヴァサーゴの戦果をパメラより報告され、さしものブラッドも感嘆する。
「たった一機でこれほどとはな…」
「これが、ガンダムの力なのでしょうか…」
「かつて、私もガンダムと同じ戦場で戦っていた時期があったが…
…このガンダムは、それ以上かもしれん」
そうブラッドが言い終わると同時に、ブリッジに女が一人、上がってきた。
その姿を一瞥すると、ブラッドは一言言った。
「フン、ジェシカ・ラングか……何の用だ?」
「物足りん…」
「……なんだと?」
ジェシカの声から発せられた第一声に、ブラッドは聞き返す。
そしてジェシカは、さらに…急に捲くし立てた。
「アタシが戦いたいのはあんなヤツらじゃない…
戦士と戦いたいんだ! アタシは!」
ブリッジクルー達が狐につままれたかのように沈黙する中、ブラッドが答えた。
「フン……バルチャーに戦士など存在せん。
貴様の仕事は戦士と戦う事ではなく、ゴミ掃除だ。
割り切るのだな……」
「知ったような事を言う……貴様がブラッドか?」
「そうだ……」
「……覚えておくぞ」
そう言い残して、ジェシカ・ラングはブリッジから立ち去った。
数泊の時が流れた後、操舵席でウッヒが一言呟いた。
「ったく、バルチャー上がりってヤツは、礼儀を知らなくていけませんねぇ」
その言葉を受け、ブラッドは
「…貴様には言われたくないと思うがな。
まぁ仕事さえできれば、性格などは問わん…
人材を選んでいられるような時代ではないからな……」
と、少し疲れたような顔で呟いた。
そしてテンザン級が基地に帰還した後…
ブラッドはパメラから、作戦の進行状況を報告されていた。
「この区画のバルチャーの掃討、及び制圧はほぼ完了したようです」
「思った以上に簡単だったな…… 所詮、ゴミはゴミに過ぎんか」
「ところで少佐、軍需産業のニールさんが会いたいと…」
「…またあのゴミか」
ニール・ザム。
彼は戦後急速に発展した兵器開発会社の社長の息子であり
その会社の営業担当の正社員である。
彼の父親が経営する「ザム・コーポレーション」は新連邦軍とも太いパイプで繋がっており
その軍内部での発言権も、日に日に増大しているという話だ。
その虎に威をかる狐のような形で、ちょくちょくニールも軍の中で
好き放題に行動するようになっていた。
基地の応接室…そこにニールはいた。
「よ…久しぶりだな少佐さん」
その顔を見て、少しウンザリした様子でブラッドは言った。
「…また来たのかね。何の用だ」
「ウチのガンダムヴァサーゴの調子はどうかと思ってね?」
「フン…何が「ウチの」だ。
アレは元々、我が新連邦が設計し開発した機体ではないか…」
「だが、前の…第八次大戦でしたっけ?
あの戦いで残された数少ないデータを元に、アレをちゃ〜んと新たに形にできたのは
ウチの会社の協力があってこそでしょ?」
「それについては……感謝している」
「ハハッ、最初からそう言えばいいんですよ」
「貴様にではない…貴様の父の会社に、だ」
ブラッドは正直、このボンボン息子が…全く持って気に入らなかった。
しかし、この男の父親の会社がなければ、あのガンダムヴァサーゴが新たに製造される事も
この部隊に配備される事も無かったと考えると…あまり邪険にはできないのであった。
さらにニールは続ける。
「この仕事でこちらは儲けさせてもらいましてね…
新たに、データを基にガンダムタイプの「復元」を行う事になったんですよ」
「まだ、復元できるガンダムタイプのデータが残っていたか…」
「意外でしょ? あのヴァサーゴの兄弟機…通称「アシュタロン」のコピー機体の製造に取り掛かってましてね」
「なるほどな…」
「もし良かったら、この部隊にそれ、回しておくように親父に言ってやることも
できますけどねぇ…」
「…是非お願いしたいな」
「そう言うと思ってたよ……んじゃ、そういう事で」
そう満足気な顔でニールは言った。
それから数日して。
夕暮れを過ぎ、空に月が浮かぶ時間帯…
内陸部を移動していた輸送艇に、一機の未確認機が襲いかかっていた。
上空より凄まじいスピードで迫り、攻撃を加えてくる、未確認の飛行物体…乗組員達は焦る。
「…なんだ!? こんな所で、空からの襲撃を受けるなんて…」
「この辺で空を飛べるバルチャーは限られてる…まさかアレがGファルコンのバーツか!?」
「いやそんなわけはねぇ、バーツのGファルコンは…」
「…クソ、ダメだ! エンジンがイカれそうだ!」
「畜生め…出れるヤツらは機銃座に付きやがれ! アイツを追っ払わないとオレらの命はねぇぞ!」
船長がそう叫んだ。
その輸送艇は、旧大戦で使われた「ピレネー級戦艦」をベースに改装して作られたらしき陸上輸送艇であり
こういったならず者達の襲撃に備え、必要最低限の武装も有している。
しかしそんな彼らの攻撃も、圧倒的なスピードを誇る謎の飛行物体にはかすりもしない。
その間も、謎の飛行物体からの攻撃は尚も続く…
「ヒャッヒャヒャヒャヒャ…こんなんじゃ、テスト代わりにもなりゃしねェぜッ!」
謎の飛行物体…「ガディール」のコクピットの中で、その男は愉しげに言った。
謎の飛行物体の正体は…連邦の試作飛行型モビルアーマー「ガディール」を手に入れた
汚名高きバルチャー、「クリューエル・クロウ」のリーダー、ニードルであった。
恨みの募るバーツとの戦いに備え、機体のテスト飛行がてら
単独での輸送艇襲撃を思い立ったというわけである。
その性能はニードルが思っていた以上…
テンション最高潮に達した彼は、機体のビームライフルの照準を輸送艇の中央部に向け、叫んだ。
「ヒャヒャヒャヒャヒャ…ドテッ腹に風穴を開けてやるぜェ!!」
その時だった…
突如ニードルの耳に通信を介して、何者かの声が聞こえた。
『…チャンス到来! 華麗にキメるぜ!』
その声が聞こえると同時に、ニードルの操るガディールに向け一筋のビームが放たれる。
間一髪、それを避けたニードルは毒づいた。
「テ…テメェ!
このオレを殺そうってのかッ! どこのどいつだァ!?」
そう毒づいた後、攻撃のあった方向を確認すると
そこには、月をバックに優雅に飛行姿勢を取る戦闘機の姿があった。
その姿を見たニードルの顔に驚愕と…喜びの顔が浮かぶ。
「まさか…バーツかァ!?
…ヒャヒャヒャヒャ! こんなにはやく巡り合えるたァなァ! 覚悟しやがれッ!」
そう叫んだニードルの耳に、再び通信を介し、聞き慣れない声が話しかけてきた。
『残念だけど…オレはバーツさんじゃあないんだよね!』
「なッ…!? テメェ! 何モンだァ!?」
そのニードルの問いかけに対し、その声…飛行気乗りのパイロットが、上機嫌そうに返した。
『よくぞ聞いてくれた! …一回しか言わないから、是非覚えて欲しいね!』
そう言った後、その戦闘機はニードルや輸送艇の乗組員達が見ている前で
音を立ててモビルスーツへと「変形」し、ビシッ、と決めポーズを取った。
その姿を見て、思わずニードルが驚愕の面持ちで叫ぶ。
「へ、変形タイプのモビルスーツだとォ!?
し…しかも、この顔はッ!?」
その声を聞いて、変形型のモビルスーツのパイロットは更に満足げな声で言う。
『その通り…コイツはオレの愛機、ガンダムエアマスター!!
そして…』
そして彼は「ガンダムエアマスター」のショルダーミサイルをガディールに向け解放した後、さらに続けた。
『このオレが、期待の新星! 新人バルチャー、サエン・コジマだぜ!!』
その姿に気を取られていたニードルは反応が遅れ、エアマスターの放ったミサイルのうち一つに
被弾してしまった。被害を確認すると、ニードルは叫んだ
「ク…クソォォォォッ!
このオトシマエは必ずつけてやるからなァ! 覚えてやがれッ!!」
そう悔しそうに叫ぶと…ニードルはガディールの機体を急速に旋回させ、撤退を開始した。
悔しい事は悔しいが、それ以上に、大事な機体をバーツと戦う前に
これ以上傷付けるわけにはいかなかったのだった…
間一髪、サエンのエアマスターの活躍により
ニードルの魔の手から逃れる事ができた輸送艇。
その乗組員達が、歓喜の声をサエンのエアマスターに送る。
『本当にありがとう! 何とお礼を言っていいか…』
「いいっていいって。困った時はお互い様でしょ?」
そんな声の数々に、サエンはそう紳士的に返した。
そして輸送艇の船長が、サエンにこう尋ねた。
『是非教えてくれ、君の名前をもう一度…』
その言葉に対し、またも上機嫌そうにサエンはこう答えた。
「通りすがりのガンダム乗りさ!
…ってキメちまってもいいんだけどさ。
良かったら覚えといてくんない?
エアマスターのサエン・コジマ…この辺で売り出し中のルーキーさ!」
『サエン・コジマ…わかった、覚えておこう。
よかったら、ウチ専属の用心棒にならないか!? 料金は弾む!』
「悪ィけど…ちょっと縛られるのは苦手なモンでね!
…そんじゃ、またな!」
そう言った後、月夜の空に浮かぶ「ガンダムエアマスター」は再び戦闘機…「ファイターモード」に変形したかと思えば
急旋回し、月を背景に、どこへともなく去っていったのだった。
その後ろ姿を見て、輸送艇の乗組員達は口々に言った。
「なんと、気持ちのいい若者だろう…」
「あんなバルチャーが、バーツの他にまだいたとはな…」
「エアマスターのサエン」の名は、こうして一帯に知れ渡っていった。
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