ア・バオア・クーの「一陣の風」
「我が忠勇なるジオン軍兵士達よ!
今や地球連邦軍艦隊の半数が我がソーラ・レイによって宇宙に消えた…
この輝きこそ我等ジオンの正義の証しである!
決定的打撃を受けた地球連邦軍に如何ほどの戦力が残っていようとも、それは既に形骸である。
敢えて言おう、カスであると!!!」
「それら軟弱の集団がこのア・バオア・クーをぬくことは出来ないと私は断言する。
人類は我等選ばれた優良種たるジオン国国民に管理運営されて初めて永久に生き延びることができる。
これ以上戦い続けては、人類そのものの存亡に関わるのだ。
地球連邦の無能なる者どもに思い知らせ、明日の未来の為に!
我がジオン国国民は立たねばならんのである!」
「おおーッ!!」
「ジーク・ジオン!!」
宇宙世紀0079末、宇宙世紀の歴史において最大規模の戦闘となった
かの有名な「ア・バオア・クー攻防戦」の火ぶたが切って落とされた。
死地に赴く連邦軍艦隊の中、ただ一隻異彩を放つ戦艦…
所属どころか時代、世界観すら異なるような異質な風貌の謎の戦艦から
謎の白いモビルスーツが二機、発進を始めていた。
「うぅ〜…契約はオペレーターだけだってハナシだったのにぃ」
白いMSのうちの一機、半月のようなヒゲを生やした異様なMSのコクピットの中で
場違いとも思える女性の泣き言が、流れるようにパイロットの口から漏れだしていた。
その声に返事をしたのは、共に出撃準備を進めるもう一機の「白いMS」のパイロット。
「プレイヤーさんも思い切ったキャラ配置するよねぇ。流石のアタシも仰天だよ!」
「ちょっとクレア、私は素人みたいなもんなんだから!
しっかり援護してよね!!」
「言われなくたって! でもその機体じゃ、援護なんていらないと思うけど?」
「…なに、このヒゲってそんな凄いMSなわけ?」
「いわくつきの機体だが、お前なら使いこなせよう…なんてね!」
「なによそれ…いわく付きって、大丈夫なのこれホントにぃ!!」
「ラさんの実力は未知数です、保障できるわけありません!」
「はっきり言うわね、気に入らないわ…
あぁ〜あ…初心者マークを貼っておけば良かったかな…?」
「気休めかもしれませんが、ラさんならうまくやれますよ!
そんじゃそろそろ発進だね!フェニックスガンダムは、クレア・ヒースローで行きます!」
「まったく…ラ・ミラ・ルナ、ターンエーガンダムで出ます!
出りゃいいんでしょ!?出ますとも!!」
そして謎の戦艦から発進した二つの光は、颯爽とア・バオア・クーの憎しみ渦巻く戦闘宙域へと突入していく。
明らかに連邦軍の純正のMSとは一線を画すその機動、その威容を目撃した
連邦軍のパイロット達は、呆然とし…
「…あのモビルスーツは何だ?」
「わかりませぬが…凄まじい顔をしておりましたな」
ともかく、その「顔」の異常さにそう感想を漏らしたという…
地球連邦軍とジオン公国の一年にわたる戦いの最終決戦に紛れ込んだ異形にして異質な二機のMS。
あからさまに目を引くその存在を、ジオンの精鋭パイロット達が見過ごすはずもない。
「なんだあの怪物は!?」
「ヒゲのバケモノだ!!」
「攻撃をヤツに集中させろ!!」
「き、きた!」
「こりゃあよりどりみどり…だね。
クレア・ヒースロー、目標を駆逐する!!」
当然ながら萎縮するラ・ミラ・ルナの乗る「ヒゲのバケモノ」ことターンエーガンダムを尻目に
先に鳥のような羽根を持つMS…クレア・ヒースロー駆るフェニックスガンダムが攻撃に転じた。
「いっけぇ!ファンネルぅ!!」
彼女がそう言うと同時に、その羽根から数条の光のようなものが飛び出し
その一つ一つが思い思いに独立機動。
「フェザーファンネル」から放たれたビームの光がジオンのMS達に向けて放たれ
ザク、リックドム、ゲルググらとバリエーション豊かな敵機を次々貫き、爆散させていく。
「ひとつ!ふたつ!…みっつ! さっすが能力開放バージョン、出力がダンチだ!
アムロさんになった気分だね!」
と、クレアが満足気に言っている間に…
「ちょっと、こ…こっちに…こないでぇぇぇ!!」
脅えるラ・ミラ・ルナの乗るターンエーが装備していた未来的デザインのビームライフルが、その火を吹いた。
この時代における「戦艦の主砲」を遥かに上回る出力を持った禍々しい光が、ア・バオア・クー宙域に妖しく煌く。
その光を確認しジオン、連邦の双方のパイロット達は勿論、クレアも驚嘆する。
「すっごい…ディレイションライフルとは、こういうものか」
しかしその光を放った張本人、ラ・ミラ・ルナはそれどころではないご様子。
「ちょっと全然当たんないんだけど!?照準ズレてんじゃないの!」
「…ズレてるのはラさんの狙いかも?」
「どーせ私はズレてますよ!」
その異常な光を目撃したジオン兵は、ある者は脅え立ちすくみ、ある者は勇敢にも撃破せんと立ち向かわんとする。
何よりも優先して撃破すべき相手と判断したジオンのMS隊が、ターンエーガンダムに向け
さらに攻撃を集中させる。
「わ、私はぁ…暴力反対ーーーーーッ!!」
そう叫ぶや否や機体を一転させ逃げの一手に打って出たラ・ミラさん。
しかし所詮は本業はオペ娘の操縦技術。避けきれるはずもなく…
「あ……当たった!?安全なお仕事だって言ってたのに〜ッ!!」
「ラさん落ち着いて!おヒゲさんの装甲ならそれくらい…」
被弾と同時になにかが「弾けた」ラ・ミラ・ルナの耳には、クレアのそんな言葉も届かない。
「もうイヤぁぁぁぁッ!!帰って帰って帰ってぇ!! 」
その泣き叫ぶ声に同調するように、ターンエーガンダムの両目が
妖しく赤く光ると同時にその胸部ユニットが展開し、そこから無数のビームの束が放たれた。
付近で戦闘をしていたジムのパイロット達がその光景に目を丸くする。
「な、なんだあの光は!?」
「アレがビーム…なのか…?」
スプラッシュビームシャワー。
ターンエーの胸部から放たれた拡散ビームが付近のジオンMS隊を一掃した。
ただ一掃した本人はというと
「あ、あれ?なにが起こったんですか!? もしかして皆帰っちゃってたりして…」
と、状況を全く理解していない様子ではあったが。
これには流石のクレア・ヒースローも苦笑い。
「は、初出撃で八機撃破って…歴代ガンダム主人公すら超えちゃう勢いだね…
ラさんってさぁ、オペレーターよりパイロットの方が適正あるんじゃない?」
「うるさぁ〜〜い!!」
ラ・ミラ・ルナの叫びがさらにターンエーのコクピット内に木霊した。
ある連邦のジムパイロットはその異質なMSの活躍をこう評したという。
「凄まじい…連邦の白い悪魔とは、ああいうものか」
悪いが人違いである。
宙域のジオンMS隊は、味方を蹂躙する「ヒゲのバケモノ」への攻撃をさらに強めるが
ターンエーの超越的性能、的確に支援するフェニックスガンダムの攻撃により
次々と返り討ちにされていく。
「白いヤツだ、ガンダムってい…うわぁぁぁ!!」
「少尉殿!!」
「ぎゃあぁ、白い悪魔だぁ!!」
その「白い悪魔」の胎内、コクピットの中では
場違いなオペ娘が狂乱の叫びを上げていた事を、彼等は知る由もない…
「ひぇぇぇぇ!!生きて帰れたらこんな仕事辞めてやるぅ! 」
泣き叫びながら戦う、ともすれば狂戦士にすら見えかねないラ・ミラ・ルナのターンエーを
飄々と宙域を飛び回り颯爽と支援しながら、クレアが感心したような口調で言う。
「う〜ん、流石に『黒歴史』版ターンエーにラさんの組み合わせは「最凶」だね!
圧倒的ではないか、我が軍は!」
「ノンキな事言ってないでもっと援護しなさいよ〜!」
「してるでしょ!ちょっとラさんさぁ、あんまりテンション上げすぎない方がいいよ?
それってかなりヤバいメカなんだからさぁ〜!」
「うぅぅ…どんどん染まっていくぅ!現場はイヤ〜ッ!!」
場違いな女、契約はオペレーターだけという話だったはずのラ・ミラ・ルナ。
彼女の存在が混沌を極めるア・バオア・クーを更なる混沌の渦へと叩き込もうとしていた…
今や戦場をかける「一陣の風(一応公式設定)」となったラ・ミラ・ルナの参戦により
さらに混沌を極めるア・バオア・クー。
そして「運命の男」が駆るジオンの名を冠したMS「ジオング」が、ついにこの戦場に舞い降りた…
「見えるぞ、私にも敵が見え…なんだと!?
この白いMSは!?」
「痛かったら…ごめんなさぁ〜い!!」
斬撃。
何も無かった空間から突如、ワープしてきたかのように現れ
超高出力ビームサーベル「メガビーム・フィールドサーベル」で問答無用で斬り付けた、ヒゲの悪魔…
「バカな!?」
もはや科学に為し得る芸当とすら思えない。
ジオングの右腕をあっという間に失った仮面の赤い人もこれには驚愕するばかり。
「こうなったらヤケよ!ネームドキャラだってなんだってやってやりますとも!!」
こうなったラ・ミラ・ルナさんの黒ヒゲはもう誰も止められない。
彼女はいわゆる「超強気無双モード」に突入していた…
「私もつくづく運の無い男だ…」
気が付いた時にはジオングの本体は完全に消滅し
脱出した頭部ユニット内で赤い人はそう漏らしたという…
その一部始終を眺めていたクレアも、ドン引きの様子で感想を述べた。
「あちゃ〜…台無しだね、こりゃ。
これ怒られるよ〜色んな人から」
少しだけ冷静になった様子のラ・ミラ・ルナさんが悪夢を見ているような顔をして言った。
「ああ………私の人生設計が崩れていくぅ……
私って…何やってるんだろ?」
それはもう誰にもわからない。
「こ……これは夢よ!そうよ……み〜んな悪い夢なんだわぁーッ!!」
ともかく、白い悪魔をも超えた白い悪魔と化したターンエーガンダム(黒歴史)は
さらにア・バオア・クーを地獄へと導いていく…
「増援を! もはや我、戦力無し!!」
「誰か弾をよこせ!! はやく!!」
「うわぁ、火が…母さーん!!」
「マリアー!!」
「…手加減してくれてる?案外いい人たちなのかも!? 」
「ちょっとラさん、その機体で全速力で吶喊されちゃ〜誰も追いつけないって!」
もはや百戦錬磨のクレアのフェニックスガンダムすら蚊帳の外である。
地獄絵図とはこの事であろう。いや、地獄でもこうまで酷くはないかもしれない。
悪魔はさらに攻撃の手を緩めない…
「何、ギレン総帥が戦死されたと!?」
「ハッ! ア・バオア・クーは全権、キシリア閣下の下に移行しました!」
「むぅ…謀ったな、キシリア…
全艦、及び全モビルスーツを集結させよ!我が隊は、この空域より撤退する!」
「な、なに!?二機だけで急接近する機体だと!?」
「こうなったらヤケよ!
そうよ…みんな消えちゃえばいいんだわ!!」
「ドロスが沈む! Nフィールドは維持できないぞ!!」
「オレたちは何処に降りればいいんだ!?」
「なんかドロワも沈みました!!」
「ついでにグワデンも!!」
「ちょっと待てそれは台本に無い!!」
「Nフィールド、現状を維持せよ!」
「あぁ!? 何だって!?」
「死んでも守れ!!」
「こんなもん守れるか!!」
「停戦命令だ、撃つなー!!」
「ジーク・ジオ…」
「ララァにはいつでも会いに行けるから…」
………
地獄絵図を通り越した何かと化したア・バオア・クー。
その中心で、真っ赤な目を光らせながら戦場を蹂躙する「一陣の風」…白いヒゲのMSの姿があった。
「ここまでやったら…私も昇進!!給料アップぅ!?
あはははは!!!」
ヤケクソと出世欲の波動に目覚めたラ・ミラ・ルナの駆るターンエーガンダムは
その歴史すら塗り変え、新たな時代を開こうとすらしていた…?
そして…あまりにも雑な無双プレイによるレベル上げの一部始終を目の当たりにしていた
クレア・ヒースローが、この戦いの総括をした。
「…とまぁ、こんなムチャクチャなプレイもできる
Gジェネレーションの新作は、11月22日発売だってさ、プレイヤーさん?」
おわり